『〈堕剣士〉キロク 竜禍』

 

キロクが受けた仕事は簡単だった。非道な領主の暗殺。主家の将来を憂いた家臣たちによる陰謀だったが、キロクは難なく標的を仕留める。しかし、依頼人の仲間がひとり逃げ出したことから、仕事を仲介してきた口入屋のブルーノはその男の口封じまで要求してきた。

逃げた男は巡礼団に身を潜めており、キロクは〈外曲輪〉の顔役〈禿げクー〉の子分マーシュとともに、巡礼団の目的地である無人島で待ち伏せることにする。

呪われていると噂され漁師も行きたがらない無人島へ渡る船を探すふたりの前に密輸船の船長ベルが現れ助力を申し出た。様々な魔法で改装されたベルの船〈レディ・エラ〉でなんとか巡礼団に先回りできたキロクだったが、ベルの裏切りによって巡礼団の虜となってしまう。

巡礼団とは世間の目を欺く仮の姿、じつは魔術師ゴルソンに率いられた一団で、聖地巡礼というのも彼らの真の目的を隠すための言い訳にすぎなかった。ゴルソンらは絶海の無人島で禁呪である竜の召喚魔術を実験していたのだ。そして、今回はその完成を支援者である諸侯たちに披露するための実験だった。巡礼団の大半はそうした諸侯が遣わした使者であり、そのなかには〈外曲輪〉の領主サンポール家の家臣アダレイの姿もあった。

ゴルソンはキロクとマーシュら数名の男を魔術のマナにして竜を召喚する。キロクは赤毛の男と一緒に杭に縛りつけられたが、この男は儀式のさなかも事の重大さがまるで理解できていないようだった。しかし、かつての戦乱のなか竜による災厄を目の当たりにしたキロクにとって、竜とは悪夢以外の何物でもなかった。しかも、ゴルソンの召喚術は膨大なマナの消費を必要とした。最初のマナだった男、それは奇しくもキロクが生命を狙っていた男だったが、竜がこの世に現れるや否やミイラのようになって死んでしまう。

必死に縄から逃れようとするキロクの目前に出現した竜は、ゴルソンの制御を逃れ、巡礼船に襲いかかる。ゴルソンは召喚術を中断することでどうにか竜を殺したが、キロクと一緒にマナとして縛られていた赤毛の男はいつの間にか自由になっていた。取り押さえようとする傭兵たちを、赤毛の男は魔術で容易く退けると、ゴルソンに竜召喚の魔術書を要求する。ゴルソンたち魔術師は自死し、赤毛の男――妖術師〈赫狗〉――は魔術書とともにキロクたちの前から消え去る。
その後、ベルの船で〈外曲輪〉へ戻ってきたキロクだったが、彼を待っていたのはサンポール家の姫セーニアからの奇妙な依頼だった。

希代の妖術師〈赫狗〉との死闘の果てにキロクが見るのは、すべてを焼き滅ぼす竜の災厄なのか、それとも――。

ジャパニーズ・ソード・パンクの傑作『背徳の島』に続き〈堕剣士〉キロクの冒険を描く第二弾。表紙は前作と同じくL/M MUFFETさんにお願いしました。

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