セルパブ小説を読んでみよう 6 斜塔乖離『ンルドヴァは瑪瑙の模様の夢遊の誤謬』

今回は斜塔乖離さんの『ンルドヴァは瑪瑙の模様の夢遊の誤謬』です。じつは以前に読んでいて、今回初めてというわけではありません。これは非常に奇妙な小説で、著者が内容紹介で断りを入れているとおりきわめて人を選ぶ本です。

すべての漢字にルビがふってあるのは蟻が集まっているようで怖いという人や、同じ文章が果てしなく反復されるのは高熱にうなされているようで苦しくなるという人には、この本は薦められません。また、年齢制限もあるのでわかると思いますが、そういう場面もあります。

もはやリーダビリティなどという読者寄りなことは度外視して、完全に作者が書きたい方向へ振り切った作品だと言えるでしょう。作者はHJ文庫で『ディアブロの茶飯事』という小説(こちらも現在 kindle unlimited で読めます)を上梓されている方ですが、さすがにこの作品が書籍化されるとは考えていないと思われます。というより、むしろそういう枠を気にせず、自分の嗜好に忠実に書かれたもののようです。こういう作品に巡り会えるのもまたセルパブの魅力という気がします。

ゴシック建築を見るような、過剰なまでに装飾された小説ですが、ストーリーそのものはシンプルでです。ひとりの男がどことも知れない構造物から脱出しようとするーーそういう話です。主人公の目覚めるところから物語は始まります。しかし、そこがどこか、なぜそこにいるのか彼にはわかりません。壁の向こうからは自分をお兄様と呼ぶ少女の声が聞こえます。となると、思い出されるのは『ドグラ・マグラ』ですね。でも、まあ、あっちの主人公は自分の名前すら憶えていない状況ですが、こちらはちゃんと「ンルドヴァ」とわかっています。この冒頭は夢野久作へのオマージュかもしれません。しかし、そんなことを言えば、この作品自体が「胎児の夢」のようでもあります。

胎児が見る夢はもちろん悪夢でしょう。この小説もまた、ひとつの悪夢なのです。小説を読むということはそれ自体がひとつの体験であり、夢を見ることだとすれば、悪夢を選んで見るのも悪くありません。ただ、悪夢というやつは醒めた後まで頭の片隅に残ってしまうものです。消そうと思っても消えない。忘れたころに突然蘇る。この本もそういう本だということだけは覚悟してください。https://www.amazon.co.jp/dp/B07R6K9G16

 

以下は僕のセルパブ本の宣伝。全部 kindle unlimited で読めます。

セルパブ小説を読んでみよう 5 斎藤 Hiro『明日の風』

セルパブ小説を読んでみよう 7 月夜野スミレ『サイバーガジェットラッキー』

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