ラノベっぽくないのを読みたいと思って見つけてきました。松元大地『サーバ・ウォーズ』3分冊。第一幕「開戦」、第二幕「攻防」、第三幕「決着」。3分冊というと長大な小説という気がしますが、そんなことはありません。たぶん3冊合わせて200ページ弱くらいの長さ。むしろ長めの中編小説でしょうか。
舞台は現代、中堅のIT企業「松茸システム社」です。秋の遠足と称して、社長の発案により一風変わったサバイバルゲームが行われます。1チーム50人ずつ、4チームに分けられた社員が互いのPCをネットワーク経由で攻撃し合うというゲームです。最後まで誰かが生き残っているチームの勝利で、年末のボーナスを総取りできる決めです。負けたらボーナスなし。
マンションのローンをボーナス月は多めに組んでしまった人はどうしたらいいんでしょう? というか、労基は黙っているのかとか思っても気にしないでおきましょう。これは小説ですから。
主人公はふたり、中堅エンジニアの弘中平助と宮本武蔵(!)です。くじ引きで彼らが振り分けられたのは非技術系社員が大半を占めるDチームでした。しかも、どうやら彼ら以上にコンピューターに詳しい人間はいない様子。一方のAチームはエースマネージャの大門忠宏を筆頭に40人ものエンジニアを擁しています。社長が言うには、これでも厳正なくじ引きの結果らしく、弘中らには圧倒的不利な戦力で戦うことを強いられます。
Dチームリーダの営業部長足利は指揮権を自ら弘中に譲り、弘中が実質上Dチームを率いることになります。しかし、弘中の人員運用による布陣が整った途端、味方に最初の犠牲者が出ます。それはどうやら敵味方を特定しない無差別攻撃によるもののようでした。もしかしたら、チームの中に犯人がいるかもしれない――そんな不安要素を抱えたまま戦闘は進行していきます。
しかし、サイバー戦だといっても、実際の戦いは単なる技術戦ではありません。戦う者が人間である以上、そこにはサイバー空間の外にある、リアルな人の「こころ」の問題が絡んできます。社内の軋轢や上下関係が、指揮者の判断やチームメンバーひとりひとりの行動に影響を及ぼし、戦果を左右することになるのです。
そして、弘中の的確な判断によりCチームのF5アタック攻撃をしのぎきり、大規模戦闘に勝利したDチームでしたが、彼らの前に圧倒的技術力を誇るAチームが立ちはだかります。彼らはすでにサーバを経由しないコネクトレスの攻撃手法を完成させていたのです。もはや風前の灯火となったDチームの運命はいかに?
ゲーム小説の一種に入れていいんでしょうかね。危機につぐ危機で3分冊一気読みせざるをえませんでした。組織の中での個人の能力とは何か、チームプレイとは何かを考えさせられる小説です。https://www.amazon.co.jp/dp/B07R6CSWQJ
ラノベっぽくないのをお求めでしたら、僕のセルパブ本もどうですか。全部 kindle unlimited で読めます。