セルパブ小説を読んでみよう 16 藤崎ほつま『エレファント トーク』

可愛い女の子の表紙。これが妹ですか。可愛いじゃないですか。今回も「ジャケ買い」の1冊。

藤崎ほつま『エレファント トーク』。

あとがきには全然売れないから表紙を変えてみたということが書かれていましたが、さて結果はどうだったのでしょうか。

気がついたらスマホになっていた主人公。いろいろ忘れてしまっていて、自分が死んだことも、自分の持ち主の女子高生が妹だってことも忘れています。

妹には他人と上手くかかわれないという悩みがあります。本人は平気なふりをしていますが、孤立が彼女を苦しめていることを兄である主人公は察しています。その妹が唯一の友だちのために売春までしようとしているのを知り、主人公はスマホに転生したことは隠し「背後霊」のようなものとして妹を助けてやろうとします。そこへ生前の親友やら、生前の恋人やら、生前のヘルメットやら、謎の女やらがからんできて事件が起こり――とそういう話です。

天王寺動物園のゾウの檻の前というロケーションがとても印象的に使われています。

ここ20年くらい女子高生の天下が続いていますが、その前は女子大生の短期政権がありました。一時コギャルなんて女子中学生の新興勢力の勃興も見られましたが、権力を奪取するまでには至らずいまだ高校生の時代が続いているわけです。ただ政権与党内部にも様々な派閥があり、部活のマネージャーや同級生や後輩や生徒会やスケバン等の属性が覇権争いを繰り返してきたのが実際です。ここ数年は妹が主流派となっており、現時点ではまだその勢いに陰りは見えません。しかし、もはや死に体と思える旧勢力女子大生の学生ラインや、婦警、看護師、自衛官、CAなどの制服組、家族ラインの延長状にある母親など少子高齢化に呼応するかのごとく力を蓄えてきた熟女勢力も無視することはできません。また、百合、BL、NTRの外部勢力の侵攻もありえるでしょう。

つまり何が言いたいかというと、女子高生の妹とスマホの組み合わせのこの作品はきわめて平成末~令和初頭的であるということです。たとえば10年後の2030年になったとき、ウリや合法ドラッグ、LINEなどの言葉に僕らは時代性を見ることになるでしょう。

それは川端の『浅草紅団』や田中康夫の『なんとなく、クリスタル』と同様に時代の風俗と分かちがたく結びついた小説だからです。作者は「出オチ」と謙遜していますが、スマホ(あるいはガラケー)をモチーフとして使うとなれば、その他の10年代後半のガジェットも作中に侵入してくるのは不可避です。

しかし、こうした表層の意匠と対置するように、妹は「ゾウは足の裏で交信する」ことを語ります。人は必ずしも言葉になったメッセージだけでつながっているわけではないのです。https://www.amazon.co.jp/dp/B073Y681SN

僕の小説では妖術師が剣に生まれ変わってます。主人公じゃないです。異物転生マニアの方は、ついでに僕のセルパブ本もお読みください。全部 kindle unlimited で読めます。

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