これを書いている今、七都府県に緊急事態が宣言されています。「復活の日」は昔、映画館でひとりで見たけれど、何がライフ・イズ・ビューティフルだよ、くらいにしか思わなかった。カミュの「ペスト」も若い頃に読んみましたが、ほとんど記憶に残っていません。いやはや、こんな日が現実に来ようとは想像もしませんでした。
とりあえず外へ出なければならない用のない人は家にこもってください。こういう時こそ、電子書籍の出番です。お家でポチっと御本が買えますからね(この機会にインディーズ作家の方へも目を向けてくれる人が増えたらいいのですが)。
今回の作品は、くみた柑『行き先はきくな』です。商業出版された小説と遜色ない作品。リーダビリティの高い文章で、肩の凝らないストーリーが軽快に進みます。
主人公エリは三十路が迫る兵庫女子。普段は婦人科の受付をしています。今日は友人の結婚式で東京に来ていますが、本人にはそういう色っぽい話は一切ない状況。出会いがないとぼやくも、理由はそれだけではないのかもしれません。
二次会でも出会いはないまま、大倉山の友だちの家へ泊めてもらうために東横線の終電に乗ります。大倉山に着いたのは午前一時過ぎってところですかね。友だちに電話をすると駅がちがうと怒られます。マンション名には大倉山と入っていても最寄り駅は一つ先の菊名だと。
一方、彼女の知らないところで、運に恵まれない兄と知恵に恵まれない弟と親に恵まれない少女の狂言誘拐計画が進行しています。弟が運転するタクシーを使って身代金を受け取ろうと企むも、何の因果か乗り込んでくるのは目的の相手ではなく出会いのない兵庫女子です。そうとは知らぬ誘拐犯は決められたセリフを言い放ちます。
「行き先はきくな」
はたしてエリは無事に友だち宅へたどり着けるのか。そして、素敵な出会いは訪れるのか。眠れない・眠らない地元住民や地元神様を巻き込み、竹内まりやをBGMに繰り広げられる、一夜のドタバタロードノベル。
まずはお茶でも淹れてくつろいでお読みください。しばしCOVID-19のことは忘れて、夜の東横線沿線をウロウロしてみましょう。EDテーマは「毎日がスペシャル」かな。https://www.amazon.co.jp/dp/B07GC67113
自作の宣伝です。ロードノベルじゃないし、舞台も知らない場所だし、出てくるのも悪い人だらけだし、まるで共通点はないですが――あ、そうだ、すっごく昔、僕は菊名の「〇本〇率進学〇究会」ってとこに通ってました。無茶苦茶薄いつながりですが、ついでにお読みください。全部 Kindle Unlimited で読めます。
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