セルパブ小説を読んでみよう 30 波野發作『旦那サマは魔法が使えナイ』

昭和でダーリンといえば「マクマーン&テイト社」の宣伝マンか、友引高校2年の恋多き男でありました。

それでもって、ひとをダーリンと呼ぶ女性は出身国、出身星系にかかわらずどうやら空が飛べるらしい、と僕らは漠然と理解していたのでありますが、本作のヒロインもやはり空を飛べるのです。

なるほどそこがキモか。出自に関係なく空が飛べれば、人をダーリンと呼んでもいいんですね。

というわけで今回は波野發作『旦那サマは魔法が使えナイ』です。この『奥さまは魔女』と対偶関係にあるような題名の小説を簡単にまとめるなら、魔法が使えない旦那様が冒険へ出かけるたびに、主人公が内緒で追いかけていって魔法でお手伝いするというパターンの連作短編です。

6話まで出ておりまして、主人公の出自や旦那様との関係にまつわる秘密が話を追うにしたがって徐々に明らかになっていきます。

興味深いのは、魔法とコンピュータのアナロジーのさせ方です。呪文をプログラミング言語のように描くのは、何もこの小説が嚆矢ではありませんが、ここまでコンピュータ側に寄せているのは珍しいと思います。

一つ一つの呪文はプログラム言語の命令のようなものでしかなくて、魔法で何かを実現しようと思ったら、複数の呪文を組み合わせて作らなければならないし、そこにいちいち変数とか入れていかなければならない。だから、そこに術者個々の個性が出てくるんですね。また、どれだけ大きな魔法を使えるかも、術者の持っている魔法回路の能力に依存していて、そこにソフトとハードの相関性も上手く使われています。主人公はスペックの低い魔法使いなので、その条件化でも機能する呪文の使い方を必死に考えなければなりません。

毎回旦那様が心配でついて行く主人公ですが、旦那様は心配もよそに自分で何とかしていて、結局いつも危ない目に遭うのは主人公自身です。そして、主人公が考えた魔法はたいてい主人公の予測を超えた何かとんでもない状況を引き起こします。このひとひねりした設定が面白いですね。毎話、読者は今度はどういうアクシデントが発生するのかと複線を探していく楽しみがあります。

まあ、かわいい子がダーリンと呼んでくれるなら、多少ドジでもいいですかね。意地悪な義母が始終家に出入りしているとか、気にさわるとすぐに電撃をくらわしてくるとかよりはずっといい気がします。https://www.amazon.co.jp/dp/B07HDT6YWL

自作の宣伝です。主人公はモテますが、甘々な感じとはならないです。たぶん性格が悪いんだと思います。「魔法の恋は恋ではないのか」問題についても言及しております。ついでにお読みください。全部 Kindle Unlimited で読めます。

 

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