仕事の引継ぎって、するのもされるのもめんどくさいですね。とくに説明もなしに引き継ぐのは本当に最悪です。
前任者のやっていることが正しいとしても、それがベストかどうかはわからないわけで、不合理なことをしているなあと思っても、そこには何か特別な理由があるのかもしれない。何の根拠もないとわかるまでとりあえず前任者と同じやり方で様子を見るか、それとも自分のやり方に修正して問題が起きたらそのときに考えることにするか。
時間がないときはどうすればいいのかなあ。主人公に許されたのは四十八時間。彼女の場合、圧倒的に不利な条件です。何しろやらなければならない仕事というのが、失踪した脚本家の代わりにドラマの最終回を書くということ。作業だけでもそこそこ時間がかかるのに、ストーリーを作ってなおかつドラマを終わらせなければいけない。脚本家の元弟子であっても断ってしかるべき仕事ですが、仕事のないフリーライターの身には「来年四月の深夜枠」というエサはあまりに美味しすぎました。
遊良カフカ『先生失踪: 失われた原稿を求めて』。
師走の十三日の金曜日も終わろうとしていたとき、売れないフリーライター山崎水菜(独身三十過ぎ)のところへ、TCTテレビのプロデューサー野口から電話がかかってきます。かつてのシナリオ書きの師匠、淡路十三が失踪したというのです。しかも、連続ドラマの最終回の脚本を書かないままで。
目先の三万円に釣られて水菜はTCTに出向きます。着いてみるとスタッフ一同困り果てた顔で集まっています。もはやドラマ『ディペンド 令和の捜査官』のスケジュールは限界を超え、週明けには撮影をしないと間に合わない状況です。
テレビ業界華やかなりし頃の旧態依然としたチーフプロデューサー富田は、水菜に代役として最終回の脚本を書くよう依頼してきます。初めは断っていた水菜でしたが、美味しい餌にとうとう引き受けてしまいます。
前振りと複線だらけで混乱しているドラマは、彼女ひとりの力ではどうにもまとめようがありませんでした。先生は人間としてはクズでも、構成はしっかり作る作家だったと、水菜は先生が失踪したホテルへ行き、パソコンを調べます。パスワードが水菜の携帯番号であるあたり、ふたりの関係は単なる師弟関係ではなかったようです。五年の空白があるといっても、主人公が仕事を受けた理由は「四月の深夜枠」のためだけとは言えなさそうです。
さて、先生はどこへ行ったのか、ドラマの結末はどうなるのか。リーダビリティ高いです。読者をぐいぐい引っ張っていく筆力には脱帽です。中編なのがもったいない。もっと読んでいたいと思いました。これ、長編でも絶対に面白いはず。https://www.amazon.co.jp/dp/B08B7WG58P
自作の宣伝です。登場人物全員失踪しているみたいな話です。ついでにお読みください。全部 Kindle Unlimited で読めます。