セルパブ小説を読んでみよう 35 諫山菜穂子『アーサークロニクル 1 – 魔剣の覚醒』

二〇二〇年の夏が終わろうとしています。新型コロナのせいでいずれ歴史研究の対象となるであろうこの年も三分の二が過ぎてしまいました。

二十年もすれば、今年を舞台にした「娯楽」小説なりマンガなりが書かれるかもしれません。当事者である僕らの右往左往ぶりも、未来から見れば滑稽なものと目に映るでしょう。歴史の限界というか当事者の限界ってもんがあるよな、と言い訳じみたことを誰か偉い人が後世に向けて予め言っているような気はしますが、どう書かれようと仕方がありません。人間には過去を解釈する自由があります。

で、諫山菜穂子『アーサークロニクル 1 – 魔剣の覚醒』です。アーサー王の伝説を下敷きとする物語です。

伝説ですから歴史とはちょっと違いますが、むしろ伝説だからこそ余計に解釈や脚色、書き換えが許されているとも言えます。現在なされる改変も、数百年という長い目で見ればその「伝説」の一部に組み込まれてしまうでしょう。

物語の初めの方で吟遊詩人に扮した魔術師マーリンによって、この話は僕らが知っている伝説とは異なり、アヴァロンから戻ってきてやり直したアーサー王の物語なのだと宣言されていますから、作者はこの小説をアーサー王伝説の異本・異伝のひとつとして構想していると言っても過言でないように思います。

とはいえ、一般にアーサー王伝説はよく知られているとは言い難いところがあります。たしかにアーサー王、魔術師マーリン、聖剣エクスカリバー、聖杯、円卓の騎士、騎士ランスロットといった単語には聞き覚えがあります。でも、物語自体はよく知らないよというのが日本人の大半ではないでしょうか。

ちくま文庫の『アーサー王の死』で勉強してから読むというのも一手だと思いますが、そういう予備知識なしに物語へ入って行く方が楽しめるかもしれません。ただ、これは一巻目なのでまだアーサーの物語というよりもその前の因縁話諸々という感じです。

また、これは作者の創作だと思いますが、エクスカリバーではない魔剣が登場してきます。この剣がもたらす力と災いによって登場人物たちは過酷な運命を生きていくことになります。

長大な作品になりそうですが、先が楽しみな物語です。https://www.amazon.co.jp/dp/B089W6KXKR

この下は自作の宣伝です。『竜禍』『背徳の島』にも、魔剣は出てまいります。魔剣好きなら是非御一読を。全部 Kindle Unlimited で読めます。

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