セルパブ小説を読んでみよう 37 北条風林『竜骨の系譜 信義と琴美』


自分が少数者であるという意識は被害者意識へと変質しがちな一方でまた、根拠のない優越意識へ変わってもいきます。
これらの変化はひとりの人間に同時に起きることもあるので、往々にしてルサンチマンのように捉えられたりします。
どういうシンクロニシティか最近そういう本ばかり続けて読んでいます。今回の北条風林『竜骨の系譜 信義と琴美』もそのひとつに勘定していいかもしれません。
ただ、小説ですからそこに登場する少数者の優越性は曖昧な根拠によるものではありません。霊的であろうが物理的であろうが小説に書かれていることは物語の中では真実に他なりません。
むしろ荒唐無稽であればなおさら小説としての面白みが増すというものでしょう。

古より脈々と続く忍者の血統。しかも彼らは高次元の意志に従い日本を裏側から支配しています。主人公はその本家筋にあたる「裏の左」と呼ばれる家の長男で、タイトルにある信義です。
しかし、長男ではあるのですが、家を継ぐのは彼ではありません。代々一男一女をもうけ、娘のほうが霊的な力を受け継いでいく掟です。
継承者は外から夫を迎え、必ず最初に男子、次に女子の子を産まなければいけません。この家に生まれた男は忍者となって継承者である妹を助けるのが務めです。
ところが、彼の代で異変が起きます。
母親は彼のあとに二人の娘を産んでしまうのです。継承者になるのは末娘という決まりですが、娘を二人産むこと自体禁を犯していることになります。その結果なのか、継承者となるべき末娘は若くして死亡し、その後母も死んでしまいます。残された妹が琴美です。

さて、このような一族で「表」が何者かに殺害されるという事件が起きました。事件の解明に動き出した主人公は、やがて国家レベルにおよぶ陰謀と対峙せざるをえなくなります。

国家公務員採用I種合格者や自衛隊特殊作戦群隊員、反社会的勢力の構成員までまきこんだ一族の争いの決着は如何に? という小説です。

最近あまり見かけなくなったアクション伝奇小説というジャンルに入るでしょうか。
「忍者と妹」というタグを見つけたら食指が動くという人にはぜひ読んでもらいたい一作です。https://www.amazon.co.jp/dp/B08FT4473D

以下は自作の紹介です。「妹」は出てきますが、主人公のではありません。東方の暗殺者たる「シノビ」も出てきます。全部 Kindle Unlimited で読めます。

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