王木亡一朗『Our Numbered Days』。
題名は「我等に残された日々」といった意味なのでしょうか。numberedの意味がわからなくて読んでみることにしました。Google翻訳先生によると「私たちの日数」という、しまらない訳になっちゃうし、実際に読んでみるのが一番早いな、というわけです。
主人公はそこそこ良いとこまで行ったインディーズバンドのフロントマンだった「僕」です。しかし、今はバンドは解散し、彼はサラリーマンに転職して妻の実家でマスオさん生活です。
渡良木益一郎という名は作者の名前とかぶります。私小説ではないにしても、ある程度作者自身が投影されたキャラクターなのかもしれません。
なぜミュージシャンの夢をあきらめたのかはストーリーが進むにつれておいおい明らかになっていきます。実のところ未練は残っています。才能がなかったとは言うものの、実はそんなことは言い訳にすぎないと自分でもわかっています。しかし、夢をあきらめたかわりに彼は新しい「家族」たちを手に入れました。妻の「久遠さん」、その両親、妻の妹たち、OLの「琴羽ちゃん」と高校生の「莉乃ちゃん」、そして二世帯住宅の一階で独り暮らす祖母の「千和さん」という多田羅家です。
闖入者である「僕」はいつも彼女たちに「家族」であることを試されます。年少の家族を守れるか。誘惑を退けて家族を守れるか。家族を守る父親になれるか。自分の人生をあきらめて家族のために生きられるか。そして、正しい夫になれるのか。
しかし、見方を変えれば、それは主人公が彼女たちを自分の「家族」として受け入れていく過程でもあります。そして、家族を守ることを絶対的に是とするならば、人が自身の家族を守るためにとる行動を責めることもできなくなります。たとえ「僕」自身が被害者になるにしてもです。
「家族」は将棋やチェスといったゲームのようです。勝ち負けはあるにしてもプレイするお互いがルールを守る限り将棋は将棋であり続けます。でも、どちらかがルールを破れば、それは将棋でも「家族」でもなくなります。主人公と実父や、「千和さん」と他の家族の関係がそういうものとして描かれています。
ただ、作者は、どこまでルールが破られたとしても「家族」には絶対に絶ち切れない絆があると信じています。この小説もまた絶望から再生へ至る物語ですが、度重なる偶然に苛まれた不運な「僕」を救うのは、この「家族」の力です。そして、この力は人が生きて誰かを愛し続ける限り決してなくならないのです。
さて、numberedとはどういう意味だったか、それはあなたが実際に読んでみるのがいちばん早いと思います。https://www.amazon.co.jp/dp/B01GMXKFZ8
僕の小説にも表紙が「建物」というのがあります。中身は全然違いますけれども、建物の表紙にそそられるという方はぜひ僕のセルパブ本もお読みください。全部 kindle unlimited で読めます。