今回はよくTwitterで見かけていた作家の本を読みました。月乃宮千晶『ゼロの男』です。
作者は作者セントラルの自己紹介を見ると歯科医で、コンサルタントもなさっていらっしゃいます。すでに何冊もKindle本を出していて、今回はその中で一番長いものを選ばせていただきました。
ひとことで言うなら「不思議な」小説です。先が読めないというならこれほど読めない本もないでしょう。次に何が起こるのかまったく予想できません。
主人公のムネアキは15歳のときに生まれて初めて手にしたバイト代六千五百円を友人宅で盗まれます。こう書くとまるで友人が盗ったみたいですがそうではありません。友人宅に友人とその妹と三人でいるところへ泥棒が入るのです。泥棒は彼らの隣の部屋に潜んでいてそこに置いてあった主人公のカバンからバイト代だけを盗んで逃げます。この体験が主人公の克明な心理描写を中心に描かれています。友人の親が怖がらせたお駄賃だと一万円くれるので、主人公は被害どころか得をしたのですが、この経験は彼に強い印象を残してしまいます。
その後、彼は苦労して医師免許を取得し、勤務医になります。病院で知り合った女性と結婚しますが、30歳では自宅が空き巣に入られて三十二万円を失います。彼は15歳のときのことを思い出し、自分は15年ごとに金銭を失う運命ではないかと考えるようになります。しかも六千五百円は15年で約50倍の三十二万円になったので、45歳では更に50倍の千六百二十五万円も失うことになると怯えるのです。
読者からすれば、これは強迫観念以外の何物でもないだろうと思いますが、作者はこの段階では妄想かどうかを明らかにしない書き方をしているので、悪夢を見ているような、とても奇妙な感じになっています。実際45歳では何が起きるのか、それは小説を読んでのお楽しみとしましょう。
この作品の独特な点は、全編にわたって主人公の心理描写が描かれているのですが、そこに濃淡がないことです。主人公は自分の身に起こることや周囲のことすべてに同じ鋭敏さで激しく反応します。彼にとってはあらゆることが等しく重要であり、気持ちに影響を与えるのです。
そしてこのルオーの絵のような濃密さは心理描写だけにとどまらず、固有名の氾濫となって現れます。まるでトマス・ピンチョンがよくやるように、伊勢丹やキムタク、ビッグボーイや大俵ハンバーグなど、当たり前の小説ならデパート、有名俳優、ファミレス、看板メニューなどと曖昧に表記するところを、固有名を使い、あらゆる物にピントを合わせたような、くっきりとした輪郭を与えているのです。こんな主人公の目を借りて世界を見ることになる読者は、そこがいかに奇妙で恐ろしい場所であるか、理由のない不安を覚えることになるでしょう。
kindle unlimitedを利用している方ならぜひダウンロードしてほしい1冊です。きっと記憶に深く刻まれること間違いなしです。https://www.amazon.co.jp/dp/B07SRV2JD2
ジャンルはまるでちがいますが、僕のセルパブ本もぜひお読みください。全部 kindle unlimited で読めます。





今回も大人向けかなあ。小倉銀時『アラジン』です。何とも不思議な表紙です。タイトルが『アラジン』ですから、アラブの格好をした人がいるのはいいんですが、四人の男女と犬と猫がこちらに背を向けています。
前回はラノベでしたが、今回は完全に大人が大人のために書いた小説。
今回はラノベっぽいのを読もうと思って選んでみました。東居英知『吸血聖戦:ヴァンパイア・クルセイド』です。とはいうものの、最近のラノベは読んでいないので、どんなものがラノベっぽいと言えるのかいまいち怪しいです。とりあえず、kindle unlimitedの「ライトノベル」のジャンルからチョイスです。
おや、かわいい。今回はジャケ買いならぬ表紙買いです。mihirock著『LONLY GIRL 五万年後の孤独』。センスのいい表紙ですねえ。
ラノベっぽくないのを読みたいと思って見つけてきました。松元大地『サーバ・ウォーズ』3分冊。第一幕「開戦」、第二幕「攻防」、第三幕「決着」。3分冊というと長大な小説という気がしますが、そんなことはありません。たぶん3冊合わせて200ページ弱くらいの長さ。むしろ長めの中編小説でしょうか。
ちょっと前まで表紙が猫の写真だった『サイバーガジェットラッキー』のシリーズ。現在3作目まで出ていますが、今回読んだのはその1作目。作者は大変な多作家で、ジャンルも多岐にわたるようです。「ようです」というのは、Author Central で4ページにも及ぶ作品リストの内容紹介しか読んでいないからで、BLや童話、シリアスな作品もありました。が、今回はSFギャグコメディを選んでおります。
話は1967年に始まる。日本ではグループサウンズがブームとなり、第2次佐藤内閣が発足し、高度経済成長期の真っ只中であるが、中国では、50年代の大躍進政策で失敗し国家主席を辞任していた毛沢東の権力奪還の手段として始まった文化大革命が、そのピークを迎えていた。
今回は斜塔乖離さんの『ンルドヴァは瑪瑙の模様の夢遊の誤謬』です。じつは以前に読んでいて、今回初めてというわけではありません。これは非常に奇妙な小説で、著者が内容紹介で断りを入れているとおりきわめて人を選ぶ本です。
やはり並び順上位にある方が読まれやすいのでしょう。英語のレビューが並んでいる本など見ると、逆効果じゃないのかなあと思いますが、払った費用以上の売り上げがあるのかもしれません。