セルパブ小説を読んでみよう 12 小倉銀時『アラジン』

今回も大人向けかなあ。小倉銀時『アラジン』です。何とも不思議な表紙です。タイトルが『アラジン』ですから、アラブの格好をした人がいるのはいいんですが、四人の男女と犬と猫がこちらに背を向けています。

いちばんこちらに近い男性、集団の中ではいちばん後ろにいる男性が主人公の小日向のようです。絵だとよくわかりませんが、作中ハゲとかジジイとか言われていますから初老というよりもうちょっと上でしょうか。風俗店や闇金といったヤクザの資金源が入っている雑居ビルの管理人をしています。派遣会社から派遣されてビルの狭い一室で寝泊りする日々です。妻も子もない孤独な生活。楽しみといえば開店早々の銭湯へ行って広い湯船に浸かることと、定食屋の安いが旨い定食に舌鼓を打つこと。そして、ビル前の猫の額ほどの地面を花壇にして花を育てること。悲しいかな、安い酒を切らすこともできません。肝臓はもう悲鳴をあげています。

主人公は、いつクビになるかわからない安給料のブラックな仕事にしがみつく哀れなオヤジです。ただこのオヤジ、ちょっと悪いところもあって、テナントの店員を騙して数万円の金をちょろまかしたりします。でも、そうして手に入れた金で贅沢をするわけでもありません。どうやら貯めているらしいのです。まあ、いつ職を失ってビルを追い出されるかもわからないのですから、それくらいの自衛策は取っておかないといけないかなって感じです。

しかし、ビルの前に自殺者を発見したあたりから話は動いてきます。いくつかの偶然が重なって、主人公は一人の若者に出会います。そして、それがきっかけとなって、なさけないオヤジの顔の下に隠していたもう一つの顔を、小日向は見せることになるのです。

京都を舞台に10億円のかかったコン・ゲームが始まります。狙う相手はヤクザの組長、と言っても昔とは違う経済ヤクザです。海千山千の相手を向こうに回して小日向の企みは成功するのでしょうか。

読み終わったら、もう一度表紙を見直してみてください。あなたはきっと、最初は気にもとめなかった「それ」が、そこに描かれている理由に胸をうたれるはずです。https://www.amazon.co.jp/dp/B07WN8MQLQ

ラノベっぽくないのをお求めでしたら、僕のセルパブ本もどうですか。全部 kindle unlimited で読めます。

セルパブ小説を読んでみよう 11 鈴木傾城『スワイパー1999:カンボジアの闇にいた女たち』

セルパブ小説を読んでみよう 13 月乃宮千晶『ゼロの男』

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください