セルパブ小説を読んでみよう 39 朱鴉宮更紗『お伽亭ななはと禁じられた噺』

気弱で常識人の少年が一人称で語るというのはラノベのひとつの定型でしょうか。そして、この少年に異能力者の美少女が絡む。大抵の場合、美少女は上から目線で少年を小馬鹿にした態度をとっていて実際は……まあ、ツンデレってやつですか(こういう何かまとめてしまう言葉にはちょっと抵抗を感じているんですけど、これはこちらの勝手な感覚の話ですからね)。

この物語の美少女は十五人抜きで真打になった天才落語家女子高生です。

曽呂利新左衛門を先祖に持つという、伝統ある噺家一家の後継者でして、思わず海○名さんちの息子さんたちを思い出して、いやー、そういうのっていろいろ言われて辛かろうなあと思った次第です。

主人公の周りにはこの美少女師匠以外にも民俗学を研究している変な姉や、何かイケナイ物をきめてる感じのノリの先生、委員長タイプの委員長といった女性がいます。ラノベがラノベたるべく、という感じです。

で、主人公は謎の展開で落語研究会に入ることになりますが、学校の外では連続撲殺魔なんてのが世間を騒がせているんですね。これがどうからんでくるのかなあ、なんてこっちが考えているうちに主人公の身近で不可解な死亡事件が起きます。

この辺りから話はオカルトっぽくなってきて、「語ると死んでしまう話」を巡る謎が展開します。「語ると死んでしまう話」、そして「聞くと死んでしまう話」まで出てきて話は、ドドーッ、と佳境に至ります。

怪談で語られる呪われた話は話の内容がどうかではなくてその存在そのものが呪われているわけですが、言葉で人を殺せるかというと、その力はあると言えるでしょう。

いやいや、言霊とかそういうことではなくてですね。

古くは紀元前7世紀、古代ギリシアの詩人アルキロコスは自分を捨てた女を罵倒する詩を書いて、その女と親を自死させたとそうです。また、自分を揶揄する彫刻を彫った彫刻家にも詩を送って自死させたと伝わっています。

最近は詩の替わりにSNSが人を殺しているようですが、本当のリテラシーというのは言葉の禍々しい力を知ることと、その呪縛から逃れる術を身につけることかもしれません。

小説書きというのも言葉の力を使う者のひとりですが、さすが「文學界」新人賞受賞者だけあって作者の能力は一級品です。

この本には他にも作品が収録されていて、個人的には『由比ヶ浜☆フェアドッグ』の方が好みでした。皆さんもぜひ読み比べてみてください。https://www.amazon.co.jp/B08W9FZQPG

以下は自作の宣伝ですが、生憎と噺家の出てくるものはございません。怪談も出てこないなあ。よろしければお読みください。すべて Kindle Unlimited でお読みになれます。

セルパブ小説を読んでみよう 38 浅倉喜織『双頭の夢魔』

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