乾石智子『滅びの鐘』

著者の描く世界が独自のものでありながらリアリティがあるのは、細密画のように描き込まれた鳥や植物や鉱石などのディテールのためだけではない。

登場人物が自然にその世界のルールに従って行動するという点。

見方を変えれば、人物の中に活きている価値観として表現できているからこそ、リアルに感じられるのだろう。

本作では支配民族と差別弾圧される民族との対立が描かれるが、よくある反逆や革命の物語にはならないから、派手な展開を期待する向きには面白くないかもしれない。

とはいえ、一方の主人公であるロベランが内なる嗜虐性にとらわれていく様には鬼気迫るものがある。

最終的に作者の性善的人間観へと物語は収束していくので後味が悪くなることはなかった。

 

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