セルパブ小説を読んでみよう 1 大滝七夕『武侠小説 東京開封府天狗伝説』

『〈堕剣士〉キロク 竜禍』をセルパブしましたが、ふと気になったのは「他のセルパブ作家たちはどんなものを書いているのだろう」ということ。で、kindle unlimited で読めるものを実際に読んでみることにしました。

最初に選んだのが『武侠小説 東京開封府天狗伝説』。何でこれなのかって単純に金庸とか武侠小説が好きだから。

舞台は北宋は神宗の時代――ということで調べてみたら、包丞が活躍する『三侠五義』の仁宗の後で、言わずと知れた『水滸伝』の徽宗の前。作中にも名前だけ登場する王安石が新法と呼ばれる改革を推し進めるのに司馬光らの旧法派が対立し、長く政権闘争が続いた時代。そういえば、王安石は北方謙三の『水滸伝』でも出てくる名前ですね。

 主人公の源宗隆は開封府の役人で、天狗殺法の源観察と呼ばれる剣の達人。じつは日本人です。元は京都の鞍馬寺の僧侶でした。その頃の日本は平安末期、すでに武士の時代を迎えています。鞍馬寺といえば牛若丸も修行したお寺ですが、仏道の道場であると同時に武芸の道場でもあったのです。この鞍馬寺で随一の武術僧になった主人公でしたが、お山の大将で一生終わることを嫌い、留学僧成尋の護衛を勝手に名乗って日本を飛び出し、宋へ渡ってきたのでした。宋で還俗した彼は、皇帝の知遇を得ていた成尋の伝手で緝捕使臣の職を得たというわけです。

 犯罪捜査を務めとする緝捕使臣の源観察は、高級官僚が襲われたという知らせを受けてその屋敷へ軽功で出かけていきます(開巻早々に軽功ですよ。武侠好きにはたまりません)。家内皆殺しの現場に残された痕跡から賊は槍の扱いに長けた者だとわかりますが、館内を荒らしまわっているのに金銀財宝は盗んでいない。どうやら武器を探していたらしい(うんうん、この宝剣を巡る争いというのも武侠小説の定番)。主人公が新しい血の跡を見つけて屋根に上がり城壁まで追って行くと、そこに黒い頭巾と道袍の三人組が待ち受けています。中央の一人は堂々とした体躯の男ですが、両脇の二人は五尺あるかどうかの女。一方が弓を持ち、もう一方は槍を持っています。槍弓二喬の名で知られる槍大喬、弓小喬の義姉妹です。彼らは自ら高官殺しの下手人であることを告げ、源観察に襲いかかります。立ち回りの場面は武侠小説の見所ですが、これが目の前で繰り広げられているかのように鮮やかに描かれています。しかし、そうそう簡単には勝負の決着がつかないのも武侠小説のお約束。

この後、秘密結社が出てきて、弓の名人が仲間になり、これまた強い美女が登場します。夜ごと寝所に美女が入れ代わり立ち代わり押しかけてきますが、主人公の身持ちが固いのは、いわゆる好漢だからでしょうか。この他にも令牌だとか、掌門だとか武侠物ではお馴染みのワードがぞろぞろ。全編弛んだりするところはなく、小気味よいテンポで一気に最後まで読ませます。

 金庸とか古龍とか武侠小説が好きな人なら絶対に読むべき一冊。面白そうだなと思ったら迷わずダウンロードしましょう。kindle unlimited の対象にもなっています。https://www.amazon.co.jp/dp/B01BJT8KMA/

 ついでに僕の『〈堕剣士〉キロク 竜禍』もダウンロードよろしく!

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